子供たちの騒ぎ

 松戸与三は、湧《わ》きかえるような、子供たちの騒ぎを身の廻りに覚えた。 彼は手紙の終りにある住所と名前を見ながら、茶碗に注いであった酒をぐっと一息に呻《あお》った。「へべれけに酔っ払いてえなあ。そうして何もかも打《ぶ》ち壊して見てえなあ」と怒鳴った。「へべれけになって暴《あば》れられて堪《たま》るもんですか、子供たちをどうします」 細君がそう云った。 彼は、細君の大きな腹の中に七人目の子供を見た。[#地から1字上げ](大正十五年一月)

「あたしは酔ツぱらひには慣れてゐるから夜がどんなに遅くならうと、どんなにあなたが騒がうと今更何とも思はないが――」 周子は、そんな前置きをした後に夫の滝野に詰つた。 田舎で暮してゐた時とは、境遇も違ふし場所柄も違ふ、今ではこのセヽこましい東京の街中で、然も間借りをしてゐる境涯である、壁一重先きには他人が住んでゐるのだ、毎晩/\夜中も関はず大声を発して、加けにどたばたとあばれられたりしては、朝になつて隣りの人に挨拶をすることも出来やしない、まるで狂ひの沙汰だ……。「それが、たゞの喧ましさとは違ふぢやありませんか、歌をうたふならせめて他人に聞かれても恥しくないやうな歌をうたひなさい。あなたゞつてもう学生ではないぢやありませんか、隣りのマンドリンが煩いなんてよくも図々しく云へたものだ、何処にお酒を飲みに行つたつて屹度鼻つまみに違ひない、几帳面の唄となつたら春雨ひとつ知らないでせう。」 周子は、あゝ[#「あゝ」に傍点]と深い溜息をついた。

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