セメント袋を縫う女工

 彼は石の上へ箱を打《ぶ》っ付けた。が、壊われなかったので、此の世の中でも踏みつぶす気になって、自棄《やけ》に踏みつけた。 彼が拾った小箱の中からは、ボロに包んだ紙切れが出た。それにはこう書いてあった。

 ――私はNセメント会社の、セメント袋を縫う女工です。私の恋人は破砕器《クラッシャー》へ石を入れることを仕事にしていました。そして十月の七日の朝、大きな石を入れる時に、その石と一緒に、クラッシャーの中へ嵌《はま》りました。 仲間の人たちは、助け出そうとしましたけれど、水の中へ溺《おぼ》れるように、石の下へ私の恋人は沈んで行きました。そして、石と恋人の体とは砕け合って、赤い細い石になって、ベルトの上へ落ちました。ベルトは粉砕筒《ふんさいとう》へ入って行きました。そこで鋼鉄の弾丸と一緒になって、細《こまか》く細く、はげしい音に呪《のろい》の声を叫びながら、砕かれました。そうして焼かれて、立派にセメントとなりました。 骨も、肉も、魂も、粉々になりました。私の恋人の一切はセメントになってしまいました。残ったものはこの仕事着のボロ許《ばか》りです。私は恋人を入れる袋を縫っています。 私の恋人はセメントになりました。私はその次の日、この手紙を書いて此樽の中へ、そうと仕舞い込みました。 あなたは労働者ですか、あなたが労働者だったら、私を可哀相《かわいそう》だと思って、お返事下さい。 此樽の中のセメントは何に使われましたでしょうか、私はそれが知りとう御座います。 私の恋人は幾樽のセメントになったでしょうか、そしてどんなに方々へ使われるのでしょうか。あなたは左官屋さんですか、それとも建築屋さんですか。

— posted by id at 11:08 am  

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