陶器の話などした

「誰のです」「それが、私は(確な名を忘れた)××だと思うんですが、落款がないんです、手に入れた時、夏目さんに見せたら、こりゃあいいと云っていた」 書斎の方に座って、陶器の話などした。私の父がこの頃少し凝りかけていたので、自然そんな方面に向ったものと見える。そんな時も、氏は元気よい話手であった。そして、日本画壇の、所謂大家というものに対して、率直な不満を洩した。平福氏の画が好きなのは、その人格がすきだという話も聞いた。画壇に於てばかりでなく、各方面に、そういう、或る見識に立脚した批判と選択を持った人であった。 考えて見るのに、私は、瀧田氏の極小部分しか知らない。而も、その小部分によほど、弱音器がかけられていると思う。大人は子供に水を割った葡萄酒を飲ませる。――そんな意味で、ひとりでに、極自由な、溌溂と全幅の真面目を発揮する氏の風貌に接する機会のなかったのは残念であった。[#地付き]〔一九二五年十二月〕

 松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に蔽《おお》われていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻毛をしゃちこばらせている、コンクリートを除《と》りたかったのだが一分間に十才ずつ吐き出す、コンクリートミキサーに、間に合わせるためには、とても指を鼻の穴に持って行く間はなかった。 彼は鼻の穴を気にしながら遂々《とうとう》十一時間、――その間に昼飯と三時休みと二度だけ休みがあったんだが、昼の時は腹の空《す》いてる為めに、も一つはミキサーを掃除していて暇がなかったため、遂々《とうとう》鼻にまで手が届かなかった――の間、鼻を掃除しなかった。彼の鼻は石膏《せっこう》細工の鼻のように硬化したようだった。 彼が仕舞《しまい》時分に、ヘトヘトになった手で移した、セメントの樽《たる》から小さな木の箱が出た。

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